安定した音を出すためのドラム椅子のセッティングを考える
さて今回もドラムのセッティングの要(かなめ)である、椅子について書いていきたいと思います。
さらに前回までは椅子の高さについて書きましたが……前回の記事で「椅子は安定し過ぎない方がいい」と書いたものの、その理由を書いていなかったので、まずはここからいってみましょう。
世の中にはいろんな椅子があります
ちょっと思い浮かべてほしいのですが、皆さんがIKEAとかニトリみたいな家具屋をまわっているとして、ふかふかのソファーがあったら多分「ドサッ」と深く腰をかけたくなりますよね。
それに反して、「某」カフェの様に座るところも木でできている小さめの椅子だったら、あまり深く腰掛けようと思わないはずです。
そして、ドラムの椅子はどうか?というと、前回も書きましたが、最近の椅子は背もたれこそありませんが、結構フカフカで座り心地が良いので、たまに深く腰を掛けてドラムを叩いている人を見かけます。
ということで以上を踏まえて結論をいうと「ドラムの椅子には浅く腰掛けた方がよい」と私は考えます。
不安定に座ること=安定した演奏?
まずちょっとイメージしてみて欲しいのですが、自分がふつうの椅子に座っていて、目の前の人が急に襲ってきた場合……どちらの方が対応しやすいでしょうか?
- 椅子に深く腰掛けている
- 椅子に浅く座っている
もちろん「2」ですね!
物騒な例えでよくないですが、これと同じことがドラミングにも言えて、プロドラマーの演奏って結構傍からみると涼しげな顔で叩いているようでも、ドラムの演奏中は、時として急に襲われた時の対処の動きと同じくらい機敏な動作が体内で行われています。(かといって、力任せに叩いているのとは全然違うんですけどね)
それなので、このような機敏な動作は椅子にどっしりと深く座って行うのは難しいのではないかと思うのです。
そしてさらに付け加えると、椅子に深く腰掛けると、骨盤が寝る状態になります。(リラックマがズルッと寝そべっている状態を思い浮かべてもらえばわかりやすいでしょうか…)
ドラムを叩くときに必要な機敏な動作は骨盤を起こしていないとできないので、この理由からも、椅子に浅く腰掛けることが重要というのは理に適って(かなって)いるのかなと思います。
以上をまとめると、「不安定に座ること」こそが「安定した演奏」を生むということですね。
なんともパラドックスというか、逆説的ですが、これがドラミングの面白さだと思うのです。
身近な例で考えるとこの「不安定こそが安定」という動作は「ランニング」のなかにも見ることができます。ちょっと思い浮かべてほしいのですが……
私は体力づくりとのために時々公園を走ってますが、たまに「ドタバタ」走っている人を見かけます。
これはどういう状態かというと、足で地面を蹴った力が、分散してしまい、上半身の腕にまで伝わっていない状態なんですね。
そしてこの「ドタバタ」走っている状態が、椅子に深く座っている状態と似ていると思います。
反対に走るフォームがきれいな人は、地面を蹴り上げた力をちゃんと体の上半身に伝えており、これが椅子に浅く座って、不安定さを作り出している状態と似ています。
というわけで、ドラムを叩くという動作は非日常的であるものの、ランニングのような日常的な動作に置き換えてみるとイメージしやすい部分もあるかなと思うので、もし自分の得意なスポーツなどありましたら、そこを糸口に考えてみるのもいいかもしれませんね。
椅子とドラムセットの前後の位置関係
そしてもう1点、椅子を置く位置もいろいろポイントがあります。
原則としては「あまりスネアに近づけないこと」ですね。
これも書き出すとまた話が飛ぶので手短にいうと「体の重さを有効に使う」ためには必要なことだということですね。
「じゃぁどのくらいの距離がいいのか?」
ということについては、人それぞれ体型が違うので何ともいえませんが、「椅子にすわって両腕をダラット下ろした時に、自然にスネアドラムのヘッドに乗っかるくらい」でしょうか。
つまりドラムといえども、体に不自然な緊張がかかるとよくないということですね。
椅子とドラムセットの左右の位置関係
また椅子を置く位置は左右はどのくらい気にするべきなのか?という問題ですが、自分の体(胴体)がドラムセットに対してなるべく正面を向くようにするといいのではないかと思います。
というのも、ドラムセットに対して自分の体(胴体)が左を向いていると、普通にやりづらいです。(カンペとか譜面を見ながらの演奏では仕方ないのですが)。
身近な例でいえば、横を向いたままくしゃみをすると首(頸椎)に負担がかかるというお話と同じです。
ドラマーは特に体が資本なので、長く叩き続けるためにも、関節(特に首、腰、手首)はつねにいたわってあげてほしいと思います。
てな感じで椅子についてつらつらと書いてきましたが……なかなか重い通りに行かないのが世の常。
それは何かというと……
「都内のリハーサルスタジオは狭い!」ということです。
つまり「ドラム用のスペースがなくて椅子とドラムセットの距離が取れない」という事態がかなりの割合で発生します。
バンド側としたら都内のスタジオで広い部屋を借りると結構レンタル代が高くついてしまうので、仕方のない選択ではあるのですが、さすがにドラマーの椅子の事情まで考えてくれとも言いにくいし……
私も以前はこういうスタジオの部屋になったときは、演奏前からかなりテンションが下がっていました(なにせ、いつもの調子で叩こうとすると、肘がガツガツ後ろの壁に当たるので…)
しかし、不平を言っていても事態は改善しないので……こういう場合はどう対処すればいいのでしょうか?
まず部屋が狭い時点で椅子を広く取っておくことは不可能という事実は変えられません。
しかし、リハーサルは毎回毎回貴重な学びの場であることにもかわりはなく、ハプニングが起きてもそこに順応していかなくてはならないのです。
ということは、部屋が狭いときはモーションの小さいドラミングしかできないので、その中でどう対応していくか?という風に頭を切り替えると、そのリハーサルスタジオの時間を有意義に使えるのではないかと思います。(このドラムスペースが狭い!って事態はたまに本番のライブハウスでも起きますので……常に想定しておくといいと思いますね)
ということでこうなってしまったら、ストロークを小さくする奏法に切り替えて対応したりします。
腕のふり幅を小さくする
というわけで直接にはセッティングの話ではないのですが「セッティングのスペースがうまく取れない」ときのことも考えておく必要があると思います。
簡単に言うと、ドラムで大きい音を出すときは、腕を大きく振り上げれば大きい音は鳴ります。
しかし、ドラムのスペースが小さいときはそれができません。
そこでどうすればよいか?ということなんですが「腕を振り上げなくても大きい音を出す」方法を考えることが必要になってきます。
まぁこの「大きい音」って何なのかということも考える必要もあるのですが、ここでは本題からそれるのでおいておいて、自分1人で悶々と試行錯誤するよりかは、偉大なる先人から学ぶ方が手っ取り早いですね。
そして、それは誰かというと…「ジェフ・ポーカロ」です。
ジェフ・ポーカロから学ぶ
ドラマーの間では知る人ぞ知るレジェンドですが……残念ながら若くして亡くなってしまったので、教材はおそらくこれだけ?だと思うのですが、
この教材を見てみると、さほどスティックを振り上げていないのに「太くてどっしりとした」音を出していることが見て取れると思います。
残念ながらこの教材はそこまでの種明かしはしていないのですが……いろいろ研究してみると面白いかもしれません。(ヒントは指の使い方だと思うのですが)
ちなみに、この教材は普通に観賞用としても楽しめます!
なにせ演奏が「とんでもなく丁寧」でありながら「とんでもなくダイナミック」という職人技を楽しめるので。
ただ、ひとつ補足しておきたいのですが、リハーサルはともかく、ライブでは「見せ方」も大切な要素です。
とくに客席であるフロアをあおるような激しい曲調がメインのバンドだと、スティックをあまり振り上げない叩き方は「地味」に見えてしまいます。
それなので(スティックを大きく振り上げる・振り上げないの)両方のパターンを練習しとくといいのではないかと思います。
というわけでいろいろ書いてきましたが、行きつくところは「聴き手(お客さん)にどう感じてもらえるか?」なので、使えそうなお話があったら使ってもらえれば幸いです。
ではでは。
ライタープロフィール
ドラマー
Hazime
ドラム歴20年。
プログレッシヴ・ロックバンドのドラマーやってます。
「セレクトーン」という音楽教室にてドラム講師もやっております。
物理学や心理学をからめてドラムの楽しさを広めていくことをモットーとしています。
ウェブサイト:http://www.drum-lesson.net